レンズ -恋ズ-

男:光雄
女:弥生

「あら、また私を撮るおつもりですの?写真などは年に一度もとっていただければ、私はそれで満足ですのよ」

「しかし、私は撮りたいのだ。あなたを撮り続けたいのだ」

「私など撮っても何の得にもなりませんよ。フィルムが勿体のうございます」

カシャッ

「今とても良い表情をしましたよ。きっといい写真が撮れてますよ」

「うふふ。あなたはほんとうに写真が好きなのですね」

「いいえ。私は只‥」

「只?」

「その‥‥ あ、あの‥‥ いえ、カ、カメラが好きなのです」

光雄はうつむき加減で弥生を見つめた。

「ふふふふっ。光雄様、お顔が林檎みたいに真っ赤ですわ」

光雄様と出会ったのは猿沢池でじっとしている亀を見つめている時でした。不意に声をかけられたので吃驚したのですが、「写真を撮らせて欲しい」というその青年は顔を真っ赤にしており、それがなんだか可愛くて「いいですよ」と微笑みながら返事をしたのです。
光雄様は細い瞳の奥に輝きを潜ませ、色白の肌が頬の赤らみをまた強調しておりました。時々猿沢池に来ては亀を眺めているもので、そこへ光雄様はよく現れました。そんな成り行きで私たちは距離を縮めていったのです。
いつものように猿沢池で光雄様と落ち合い、茶屋に参りました時の事、弥生は重大な事に気付いてしまったのです。窓から差し込む光に包まれるように輝いていた光雄様を見て、心の奥底が熱くなるのを感じたのです。

「どうしました?」
「いえ、なんでもありません」
弥生は心中を隠すようにとっさに目をそらしてしまいました。いっそのことそのまま心の中が伝わればいいのに。

(未完)